「トイレの先はこうなっている」大阪湾の釣り人なら知っておきたい下水処理のお話し

トイレの先?

排出しない人はいない。(私の知る限りでは)でもトイレでジャーッと流した後のことまで気にする人もあまりいない。どこかの記事なあったマスクを流すなんて言語同断だが、流した先はまあ下水処理場に行って・・・・・その先は・・・・・というのが、私を含め多くの人の感覚ではないだろうか?

先日、川崎市の公共トイレから汚水が直接河川に流れ込んでいたニュースがあった。また東京オリンピック開催時にお台場の海水が臭う、はっきりいってう⚪︎こ臭いと一時期ニュースに流れた。とかくその汚染が言われる都会の海。水質環境保全のためどんな施策が打ちれているのか?大阪湾周辺を主な釣場として、そこで釣れている魚を食べている釣り人として以前から興味があった。

西宮市主催の下水処理場の見学会があったので応募した

そんな時にちょうどよく西宮市主催の水道施設見学会があったので応募し、3月6日に参加してきた。

当日の参加者はおそらく30名前後。平日だったにも関わらず(私は会社を半日休んで参加)、市がチャーターした中型のバスが満席の盛況ぶりだった。年配の人が多いかなと漠然と予想していたのだが、意外にも30代と思しきご夫婦もいたりして年齢層は予想以上に広かった

約30分ほどで施設に到着し、早速館内で施設の所長さんからパワポ資料とムービーでガイダンスを受ける。

施設の正式名称は「武庫川下流浄化センター」 武庫川のほぼ河口付近、尼崎市側に位置する。計画処理面積は、6,678.81ha 、計画処理人口は629,100人、計画処理水は374,773㎥。宝塚市、伊丹市、西宮市、尼崎市から排出される下水の処理の拠点だ。各市の下水道管を通って運ばれてきた下水道は中継ポンプ場を経て施設に集められてくる。

(以下私の私見)

この下水処理のルートは各自治体によって異なっており、例えば東京は「合流式」と呼ばれるもので、雨水と汚水を一緒に処理するもの。大雨が降った後などは、処理しきれない汚水が雨水と一緒に海に流されてしまい結果として先に述べたお台場のような「う⚪︎こ臭い」という事態になってしまうと言われている。(ここのあたりの記述は私がネットに流布している説をまとめたもので、各自調べていただけると幸いです)対してこの武庫川下流浄化センター管轄エリアでは汚水と雨水を分離する「分流式」をとっているため東京のような事態は起こりにくいと考えられる。

ガイダンスの後は施設の見学となる。

この汚水が、果たして・・・・

まず施設に集められた汚水は「最初沈殿池」に送られ約2時間滞留させ砂や浮遊物を取り除く。見学時はそんなに汚水は溜まっていなかった。

汚水の「水」部分は「反応タンク」に送られる。

ここで水の浄化を行うために約7時間空気に接触させこの間に微生物が下水中の汚れた部分、微生物にとっては栄養を吸収、消化を繰り返し綺麗な水と活性汚泥に分離しやすくなる。いわばこの部分が下水処理の一つのポイント。また施設内でこの部分が一番「う⚪︎こ臭く」、また水も「汚水」と呼ぶに相応しい色。ああ下水処理施設に来ているのだなあと実感した場所。

ちなみに汚れた汚水を吸収、消化してくれるのは「バギニコラ」「フィロディナ」「エビスティリス」という微生物の方々。本当にこれらの方々には足を向けて寝れませんわ。

足を向けて寝れないバギニコラ(武庫川下流浄化センター パンフより引用)

そして処理された水は「最終沈殿池」で約3時間滞留させ、汚泥を沈殿させる。

この時点で水は澄んできてもはや「汚水」とは言えない。匂いもしない。さらに水は大腸菌対策のため塩素で消毒してから、武庫川河口近くの海に放出される。

放出先には水鳥が群れている。何か餌がいるのだろうか?所長さんの話によると水温が高い時期には、魚の群れも見られるとか。ちなみに兵庫県の下水の排出時の水質基準はBOD(※)が15mg/ℓ以下。この浄化センターから排出される水質基準は2~3mg/ℓ。この数値が5mg/ℓ以下でコイやフナが生息可能、3mg/ℓで清流の魚と言われているアユが生息可能ということ。つまりかなり綺麗な水となって排出されていることがわかる。

では大阪湾特に「湾奥」と呼ばれているエリアの汚れの原因は何か?先に述べたBOD汚染の数値は大阪湾奥でも激減している。汚れていると思われるのは過去からの汚染の堆積、埋立地開発による潮流の阻害等さまざまな要因が組み合わさっていると思われる。

また汚水を処理し後に残る汚泥は、隣接する兵庫県東スラッジセンターに運ばれ焼却処理、焼却灰は埋立地に運ばれ埋立処分される。さらにその一部はレンガやプロックに再利用される。つまり徹底的にかつ合理的に利用されているのだ。

感謝の念が湧いてくる

3時間の見学はあっという間に過ぎた。我々が排出したものをこれらの施設で毎日、お正月もお盆もゴールデンウィークも休みなく稼働し、(働いている方々は交代制だと思うが)汚れを分解し「きれいな水」として海に還してくれている。これらの方々に頭が下がると同時に、このシステムを築き上げてくれた過去からの多くの方々に畏敬と感謝の念が湧き上がる。

トイレの先にあるものは、過去からの多くの人々の知恵と努力と営為から生まれた「美しい水」だった。

※BOD・・・(Biochemical Oxygen Demand) 生物化学的酸素要求量 微生物が水中の有機物などを酸化、分解する過程で消費する酸素の量。この値が大きいほど汚れている水ということになる。

※参照 『武庫川下流浄化センターパンフレット』

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